ファンドのウォーターフォールは、一見すると計算の問題に見えます。しかし、計算はむしろ最後の工程です。数字を当てはめる前に、運用成果をいつ認識するのか、GPがどの段階から利益配分に参加するのか、そして投資の成功によって生まれた利益をGPとLPの間でどのように分配するのかという判断が既になされています。
ランガムホールの日本責任者である宮田 忍がウォーターフォールに関心を持つのは、まさにこの点です。その仕組みは数学的ですが、成り立ちはそうではありません。現在、プライベート市場で用いられているさまざまな構造は、運用者と、その運用者に資金を託す投資家との間で積み重ねられてきた交渉の結果です。
このように考えると、ウォーターフォールは単なる分配計算の方法ではありません。異なる立場にあるGPとLPの利害を、市場がどのように調整してきたかを示す記録でもあります。
計算の前にある判断
ウォーターフォールを設計する際の代表的な論点の一つに、ディール・バイ・ディール方式とホールファンド方式のどちらを採用するかという問題があります。
例えば、10件の投資を行うファンドがあり、そのうち5件が非常に高い成果を上げ、残る5件では損失が生じたとします。ディール・バイ・ディール方式では、ポートフォリオ内の残りの投資が回収される前に、成功した案件から生じた利益についてGPにキャリード・インタレストが分配される場合があります。
GPの立場からすれば、既に価値を生み出している以上、その成果は認識されるべきだという考え方には合理性があります。一方、LPから見れば、その利益がファンド内の別の投資で生じる損失によって相殺された場合にどうなるのかという疑問が生じます。どちらの考え方にも相応の理由があり、運用成果を捉える出発点が異なるのです。
ホールファンド方式では、ファンド全体のリターンを評価します。一般に、投資家が拠出済み元本の返還と優先リターンの支払いを受けた後に、キャリード・インタレストが支払われます。また、この二つの立場の隔たりを調整するため、調整型のディール・バイ・ディール方式や、両者を組み合わせた仕組みも生まれてきました。
宮田がウォーターフォールを単なる「利益配分の計算式」ではなく、「インセンティブを設計する仕組み」と捉えるのは、このためです。
雛形LPAは答えではない
現在ではファンド契約に当然のように盛り込まれている多くの条項にも、同じような歴史があります。
キャリード・インタレスト、ハードルレート、キャッチアップ、そしてディール・バイ・ディール方式とホールファンド方式の選択は、いずれも確立された市場慣行に見えるかもしれません。しかし、これらが現在の形になったのは偶然ではありません。そこには、経済条件やインセンティブ、公平性をめぐって、GPとLPの間で重ねられてきた議論があります。
この点は、LPAの雛形が「正解」として扱われることもある日本において、特に重要です。宮田はこう述べています。「雛形LPAは答えではありません。過去のGPとLPが、何十年もかけて積み上げた交渉結果です。」
一般的な条項を見れば、市場実務が現在どこに落ち着いているかは分かります。しかし、その条項が特定のファンドにも適切である理由まで、自動的に説明してくれるわけではありません。
本当に検討すべきなのは、その条項がどのような問題を解決するために設けられたのか、誰の利益を守るのか、どのような行動を促すのか、そしてその考え方が当該ファンドの投資戦略や投資家に適しているのかという点です。
ハードルレートの根拠を考える
プライベート市場では、8%というハードルレートが広く見られます。宮田がまず考えるのは、「なぜ8%なのか」ということです。
市場慣行だからという説明もできますが、それだけでは、その背後にある経済的な意味は十分に見えてきません。キャピタルコールによって拠出された資金は、分配されるまでファンドに拘束され、他の投資機会に振り向けることができません。上場株式、不動産、他のプライベートファンドなど、性質は異なっていても、いずれも投資家にとって資金の配分先となる選択肢です。
投資戦略や資産クラスによって条件は異なるため、すべてのファンドに共通する唯一の正しいハードルレートがあるわけではありません。一方で、宮田はハードルレートが0%に設定されている場合には、その理由を慎重に考える必要があると見ています。
投資家には、国債、投資適格社債、インデックスファンドなど、それぞれ一定の収益が期待できる選択肢があります。そうした中で、10年間にわたり資金を拘束されるにもかかわらず、GPが利益配分に参加する前提となる最低収益が設けられていないのであれば、その条件は十分に検討されるべきです。
重要なのは、採用した条件について、投資家に説明できる明確な根拠があるかどうかです。このように捉えると、ある割合をめぐる技術的な交渉は、資本の機会費用、投資戦略の性質、そしてGPとLPがファンドの成功による利益をどのような基準で分配するのかという、より広い議論につながります。
LPAを実際のキャッシュフローに当てはめると
ウォーターフォールのもう一つの側面は、ファンドの運用が始まってから見えてきます。LPAには合意された経済条件が定められていますが、実際のキャッシュフローが整然とした順序で発生することはほとんどありません。
ファンドの運用期間中、キャピタルコールや投資の回収はそれぞれ異なるタイミングで行われます。分配が一部にとどまる一方で、優先リターンは累積し、条件によっては複利で計算されます。こうした状況では、タイミングが結果を左右します。
宮田は最近、直感的に予想される結果と、実際の計算結果が異なる事例を検証しました。ウォーターフォール条項を実務に落とし込んだ経験がある人であれば、契約書上は明快に見える条件でも、実際のキャッシュフローに適用すると予想外の結果を生むことがあると理解しているでしょう。
ここに、ファンドアドミニストレーターならではの視点があります。その役割は、GPとLPの間で何が公平かを決めることではありません。当事者間で合意された経済条件を計算式に置き換え、ファンドの運用期間を通じて一貫して適用することです。
意図した経済条件がウォーターフォールの仕組みに明確に反映されていなければ、実際に分配すべき資金が生じるまで、曖昧さが表面化しないことがあります。だからこそGPにとっては、最初の回収金が入ってからその挙動を知るのではなく、LPAの交渉段階で現実的なキャッシュフローのシナリオを用いてウォーターフォールを検証することが重要です。
交渉で合意した原則から、経済的な結果へ
ウォーターフォールは、商業上の交渉から始まり、法的な文言で表現され、最終的には数学的な計算となります。この三つの間で、整合性が取れていなければなりません。
ウォーターフォールを理解するには、計算式の先を見る必要があります。雛形は他の市場参加者がどのように問題に取り組んできたかを示し、市場慣行は一つの参照点になります。しかし、それだけで、条項の背景にある考え方を検討する必要がなくなるわけではありません。また、投資家が選択できる、より広い投資機会との比較も欠かせません。
宮田にとって、ウォーターフォールの変遷は、運用成果をどの時点で認識するのか、資本コストをどのように考慮するのか、そして投資の成功によって生まれた利益をどのように分配するのかについて、GPとLPが重ねてきた試みを映し出しています。最後の計算によって、それまでの選択が現実の結果となります。
問うべきなのは、ウォーターフォールが正しく計算されているかどうかだけではありません。その計算が、GPとLPが意図した経済的な関係を正しく反映しているかどうかです。
本稿は、宮田 忍によるSlowstepsの記事およびポッドキャストエピソード「ウォーターフォールとは何か」をもとに構成しています。 Why Waterfalls Exist: Fifty Years of Negotiation Between GPs and LPs




